※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2023年5月30日(火)に行った講演の要約を掲載しています。
台湾有事が起こるのか起こらないのか、日本を守るためには絶対に台湾有事を起こしてはならない。台湾有事を起こさないために、日本として最大の外交的努力をするべき時だと思う。私は台湾とのお付き合いが長く、友人の方々とも色々意見交換をするが、台湾の人達は中国大陸と事を構えることを全く望んでいない。そんなことをしたら、台湾人の生活が維持できなくなることをよくわかっている。有事になった時に日本も一緒に戦ってほしいとも全く思っていない。日本が平和憲法を持っている国であることは百も承知だから、日本が共に戦ってくれることを期待していない。台湾の7割を超える人達は現状維持を望んでいるのであり、台湾が現状維持できるための最大限の外交努力を日本に行ってほしいというのが日本に対する願い、期待なのである。それなのに日本の政治リーダーは、台湾と一緒になって戦うというようなことばかり言っている。非常に怖いことだと思うし、あまりにも現実がわかっていないという気がしてならない。
安倍元首相は大変お気の毒な亡くなられ方をされたが、私は安倍元首相が亡くなったことと、8年近い安倍政権の下で実行された政策を総括することとは、全く次元の違うことだと思っている。安倍政権時代に行った政策が今まさに様々な問題となって表れてきており、そのことをきちんと総括しておく必要がある。
長い間、日本は「戦争をしない国」「戦争が出来ない国」だったが、安倍政権の時に集団的自衛権を容認する閣議決定を行い、それに基づいて安保法制を大きく転換させた。それによって「戦争を出来る国」に変え、更に今回のサミットで「戦争をする国」というイメージがつくられたように思う。
岸田文雄首相が政権を取った時には安倍政権の政策を見直してくれるのではないかと多少の期待感はあったが、その期待感は全くなくなった。昨年のはじめに岸田首相が世界経済フォーラム、いわゆるダボス会議に出席した。世界経済フォーラムの主要メンバーは長い間、「グレート・リセット」という言葉を使っている。グレート・リセットとは、世界の秩序を守るための体系的、構造的な仕組みを大きく転換させることであり、その新たな仕組みの下で、彼らがリーダーになって新しい時代をつくっていこうとしている。世界経済フォーラムを主宰しているクラウス・シュワブ氏の最近の発言を聞いていると、「自分達が世界を動かす」ということを平気で言っているし、「神は死んだ。自分たちが神に代わる存在である。」というようなことまで言い始めている。
そのダボス会議で、昨年岸田首相は「グレート・トランスフォーメーション・オブ・リベラル・ソサエティを目指していく」とスピーチした。要するにグレート・リセットに全面的に協力をすると意思表示をしたのである。それを喜んだクラウス・シュワブ氏はすぐに来日し、そのことを再確認した。その時に恐らくウクライナに対する支援も要請されたのではないかという気がしている。その時点で、岸田首相の外に向かってのスタンスは決まってしまったと思う。本年4月にはNATO(北大西洋条約機構)の外相会議に林外相が出席し、その後、NATOのストルテンベルグ事務総長が来日して岸田首相に会い、更に東京にNATOの連絡事務所を開設することを計画している。アジアの国である日本がなぜ遠く離れた北大西洋の安全保障に直接関わらなければならないのか理解に苦しむ。岸田政権の下で日本はどんどん危ない方向に進んでいるのである。(続く)