※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2023年5月30日(火)に行った講演の要約を掲載しています。

 G7広島サミットが終わった直後なので、今回のサミットは一体、日本や国際社会に何をもたらしたのかについて、私なりの感想を申し上げたい。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が広島サミットで来日したが、彼にとって最高の舞台を日本が用意したということだと思う。ゼレンスキー氏は周到な準備をした上でサミットに臨んできた。来日する前にサウジアラビアを訪れ、首脳達と会談をしている。来日時の飛行機の提供について、アメリカの申し出を断って、フランスのマクロン大統領に頼んだ。マクロン大統領がフランスの飛行機を用意し、それに乗ってやってきたのである。日本に到着後、移動に使用した自動車はドイツのBMW、これは日本側が用意したようだが、ドイツ製の車はゼレンスキー氏の強い要望だったようだ。

 フランスとドイツはNATOの加盟国だが、アメリカとは少し違ったスタンスを取っている。マクロン大統領が中国の習近平国家主席と北京で会談したり、ドイツもまたアメリカの言いなりにはならないという立場を取っており、フランスとドイツに対して、ゼレンスキー氏はかなり気を遣っているようだ。

 G7広島サミットは、ゼレンスキー氏の最高のパフォーマンスの場になってしまったが、本来、広島サミットは「平和の祭典」にすべきだった。しかし、ゼレンスキー氏がウクライナ戦争を日本に持ち込んだことによって、「平和の祭典」から「戦争の祭典」になってしまった。岸田首相の呼びかけでG7以外の、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる国々、ロシアとも中国ともアメリカとも一体化はしないという路線を取っている、インドのモディ首相、インドネシアのジョコ大統領、ブラジルのルーラ大統領といった首脳も来日したわけだから、ウクライナ戦争をいち早く終わらせるために、みんなで力を合わせ、核のない平和な国際社会をいかに構築していくか、という大きなメッセージを発出する祭典にすべきではなかったのではないか。今回のサミットの意味合いは、日本にとって著しく損なわれたと私は受け止めている。 

 今、日本の政治リーダーにとって大事なことは、国民を守り、国民生活を守ることである。経済を守り、家計を守ることはもとより大切だが、国民の命を守ることが最も大事なのである。国民の命を守るために日本の政治家は何を行うべきか。日本という国は、かつてイランとイラクが戦争をした時に、その両方に話ができる国だったのである。だから国際社会において独自の行動を取ることができたのである。

 ところが今や、日本の外交安全保障はアメリカの言いなりになってしまっている。そしてそのアメリカや欧州諸国の背後にいる、いわゆるディープステートが何を考えているかというと、常に彼らは戦争のことを考えているのである。戦争ビジネスは最も儲かるビジネスなので、どこかで戦争を起こして儲けようとしているわけである。

 では、戦争をどこで起こすのか。現在ウクライナ戦争が行われているが、そう簡単には終結しそうにない。ウクライナに武器を提供している国がアメリカ製のF16戦闘機を供与しようとしても、今すぐに供与するのではなく、数ヶ月先などと言っている。ウクライナ戦争がしばらく続くという前提で色々と考えているということに他ならない。

 ウクライナ戦争の他に、どこで戦争が起こり得るか、長い間、世界で一番危ないのは中東地域だった。ところがその中東が最近すっかり様変わりしている。断交中のイランとサウジアラビアが和解することで合意、その仲介役を中国が務めた。一方、ロシアはイランやシリアに対する影響力が依然として強い。したがってイスラエルがどんどん追い込まれてきている。イスラエルはアメリカに対する影響力が非常に強い国で、アメリカは絶対にイスラエルを守ると言われてきたが、アメリカ自体が総合的に国力が落ちてきている中で、アメリカ単独ではとてもイスラエルを守れない状況になってきた。イスラエルのリーダー達に、アメリカが守ってくれるかどうかわからないという懸念が出てくれば、ロシア、中国に対する配慮をせざるを得なくなるだろう。イスラエルの外務省の2人の高官が5月中頃にロシアを訪問したことも最近の新たな状況における危機感の表れに他ならない。

 中東においてはロシア、中国の存在感がこれまで以上に大きくなり、その2つの大国を中心とした中東戦略が大きな流れを作っていくのではないかと思われる。そうなると中東で今すぐに戦争は起きそうにない。それではどこで起き得るのかというと、北東アジアである。彼ら(ディープステート)がこの地域で戦争を起こそうとしていることは間違いない。そのきっかけになるのが台湾有事、もう一つは北朝鮮の動きである。

 広島サミットで韓国の尹錫悦大統領が来日した。韓国の大統領官邸はソウルの青瓦台にあるが、最近、執務室を青瓦台から国防省の中に移したようである。青瓦台の裏には山があり、その山に北朝鮮がトンネルを掘っているらしいという情報があり、自己防衛のために官邸機能を国防省内に移したのではなかろうか。北朝鮮を意識して、核装備をすべきだとの声も出てきている。

 ロシアや中国、北朝鮮の脅威がある時に、日本の国民の命を守るためには、日本の政治リーダーは身を捨てて高度な外交を行うしかないと思う。ところがそういう意思は全く見えてこない。逆にディープステートが仕掛けようとしている戦いの先頭に立って旗振り役をやってしまったのが今回のサミットではなかったかと私は思う。(続く)