※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2023年5月30日(火)に行った講演の要約を掲載しています。

 台湾の話に戻るが、中国は嘘を平気で言う国である。嘘を平気で言うのだけれど、嘘を繰り返し言っていると、それがあたかも本当であるように思われてしまう。日本社会でもそういうことはよくあると思うが、中国は国家として堂々とそれをやるのである。台湾は中国の不可分の領土であって、それを領有することは中国にとって核心的利益である、という言い方を常にしている。中国の不可分の領土と言うけれども、歴史を振り返ってみれば、中国共産党が政権をとって中華人民共和国が発足したのが1949年、国民党との内戦で勝利し、中国共産党が大陸の政権になったのである。それ以前は国民党がつくった中華民国だった。中華民国の憲法の草案が制定されたのは1935年、その草案では、台湾は中国の領土になっていない。なぜかと言うと、当時は日本が統治していたからである。日本は日清戦争で勝利し、その後、領土の割譲を受けて台湾を領有した。1895年から戦後の1945年までの50年間は日本の統治だったわけである。だから中華民国の憲法の草案の中に、台湾は領土として含まれていない。中華民国の憲法が施行されたのが1946年、その時点でも憲法は改正されていないわけだから台湾は中国の領土ではないわけである。そのことを日本の人達も正しく理解しなくてはいけない。

 日本が戦ったのは中国共産党ではなく、国民党の軍隊と戦ったのである。国民党は一方で日本と戦いながら、一方で中国共産党と戦うという両面作戦を取らざるを得なかった。両面作戦を取ったが故に戦力が消耗し、中国共産党が勝ったのである。

 第二次大戦後、日本の要人が中国共産党の毛沢東に何度か会っている。要人達は毛沢東に対して「迷惑をかけました」と話したが、毛沢東は「謝ってもらう必要はありません。あなた方が国民党と戦ってくれたおかげで、我々は政権を取ることができました。」と感謝の言葉を述べている。今やそういう話は全く表に出てこない。

 尖閣諸島の問題についても、田中角栄元首相が日中国交回復を実現した時に、将来の問題として今すぐ解決をするのはやめましょうと棚上げしたが、あの時に尖閣諸島は日本の不可分の領土なのだと中国に認めさせるべきだったと思う。

 長年ご指導をいただいた台湾の李登輝元総統が「尖閣諸島が中国の領土だなんてとんでもない」と私に繰り返し話された。「もともと尖閣諸島は琉球王朝の領土だった。その周辺が大変よい漁場だから、琉球の人達はもちろん操業していたが、台湾の漁師達も琉球王朝の許可を取って操業していた。そして琉球本土より台湾で水揚げした方が近いから、台湾北部のキールン(基隆)で水揚げをしていた。キールンには当時、琉球の漁師達の集落があった。その琉球王朝が沖縄になり、沖縄が日本に復帰したのだから、当然日本のものだ。」「台湾人である私が言うのだから、日本はもっと自信をもって日本の領土であることを主張しなさい。日本はそれだけの力があるのだから、アメリカに対しても中国に対しても言うべきことはきちんと言いなさい」と繰り返し言われたことを思い出す。

 李登輝元総統はまた、「馬英九が尖閣諸島は台湾のものだと言ったが、あれは間違っている。まして中国大陸の政府、共産党政権が『尖閣諸島は自分たちのものだ』というのはとんでもない間違いだ」ともおっしゃっていた。そういう話は日本のメディアには全く出てこない。なぜかと言うと、日本の新聞社と中国は、日中記者協定を結んでおり、中国共産党政権が嫌がることを言ったら、記者を中国に置けなくなってしまうから唯々諾々としているのである。

 もともと中華民国は戦勝5ヶ国のひとつだった。当時は蒋介石政権。戦勝5ヶ国のリーダーとして国連を作ることにも参加し、安保理の理事国となり常任理事国になっていた。ところが中国共産党の力がだんだん強くなり、国連に加盟する新興国が増えてくる中で、1971年、中国共産党と友好関係にあったアルバニアが、安保理では拒否権があるのでうまく通らないので、総会で議決をしようという動きをみせ、アメリカや日本はそれを国連総会の3分の2以上の議決を必要とするという重要事項に指定した。日本の佐藤栄作元首相は最後まで台湾の立場を支持したので、佐藤栄作元首相は台湾では非常に評価が高かった。結局のところアルバニアの決議案が通ってしまい、自動的に国連の席は中国共産党政府が取ることになってしまったわけである。しかし、台湾が一瞬たりとも中国共産党の統治下にあったことはない。その事実をもっと多くの皆さんに知ってもらいたいし、日本の政治家にはもっと勉強してもらわなくてはならない。

 日本の政治家は台湾有事をいかに起こさないようにするかを考えなくてはいけない。先般、台湾の馬英九前総統が中国大陸を訪れた。総統経験者として初めて訪問したのである。私は馬英九前総統を若い頃から知っているが、途中からどんどん中国に取り込まれていってしまった。今年3月に馬英九前総統が中国を訪問した時、中国国務院台湾事務弁公室の宋涛主任との会談の中で、(中国大陸と台湾が「一つの中国」に属することを双方が口頭で認め合ったとする)「92年コンセンサス」の重要性を繰り返し強調した。習近平国家主席は香港に対しても一国二制度と言いながら、実際には中国の影響力を強めており、それと同じことを台湾でも実行しようとしている。

 馬英九前総統は92年コンセンサスを認めてしまったが、台湾の総統経験者としてはあり得ない話である。台湾の多くの人達からすれば”売国行為“と言ってもおかしくないだろう。中国側も絶好の宣伝材料になる。総統を経験した馬英九氏が一国二制度を認めてくれたということは、彼らにとっては鬼の首を取ったようなもので、徹底して宣伝をするだろう。国際社会もそれを認めるようなことになると、台湾情勢はますます危なくなってくると思う。台湾の70%以上の人達は、92年コンセンサスに反対している。中国大陸に隷属するということも75%以上の人が「あり得ない」としている。

 李登輝元総統は、大陸と台湾を独立した国と国との特殊な関係と位置付けていた。そして馬英九氏が台北市長に当選した時の選挙最終日の応援演説で「これから我々は自らを『新台湾人』と呼ぼうではないか」と呼びかけた。台湾の多くの人達は中国人ではなく台湾人だと思っている。しかし国民党を支持し、戦後、蒋介石と一緒に大陸から台湾に入ってきた人達は、中国人だと思っている。そういう人達も含めて、新台湾人でいこうではではないかと呼びかけをしたのである。その演説が多くの人の共感を得て、馬英九氏は当選した。李登輝元総裁にお世話になり、恩があるのに今、全く違う道を進み始めていることは残念に思う。

 中国はこれから最大限、馬英九氏を利用するだろう。一番大事なのは2024年の総統選挙である。現在、副総統をしている民進党の頼清徳氏が出馬を表明している。頼清徳氏は蔡英文総統の一番苦しい時に足を引っ張ったということで、民進党の内部で万全の支持を得られていない。その辺が一つの懸念材料としてある。

 台湾は、ジェンダー指数で世界最上位にランクされている民主国家である。李登輝元総統の手によって武力革命をやらずに民主化を実現したわけで、李登輝元総統は「台湾民主化の父」といわれている。大変な政治力があったと思う。国民の投票によって国民党が政権を失うこともあり得ると認識した上で憲法改正を行って、総統を直接選挙によって選ばれるようにした。その結果、陳水扁という民進党の総統が誕生したのだから国民党の古い人達の中には李登輝元総統の決断について悪く言う人がいるが、李登輝元総統の英断によって台湾の民主化が進み、今や最も成熟した民主国家になってきているように思う。そういう国を日本が放っておくことはあり得ない。日本は一緒に戦うことを考えるのではなく、中国と事を構えることがないようにするための外交努力をすべきなのである。

 台湾有事になれば間違いなく沖縄米軍基地と岩国米軍基地は攻撃対象となる。そうなれば集団的自衛権ではなく、まさに自衛のための個別的自衛権を発動して戦わざるを得ないことになる。その時に今の日本の自衛隊の力で国民を守れるかといったら、私は守れないと思う。先日、ある国際政治学者と数人の政治家と話をした。その国際政治学者がこんなことを言っていた。自衛隊の制服組の人達と話をしているが、今、自衛隊の士気が落ちてきており、入隊者も減少してきている。武器弾薬も心もとない状況になってきており、とても日本の国民を守れる状況ではなくなってきている。そういう時に事を構えざるを得ないとなったらどうなるか、心配で仕方がないと言うのである。

 ウクライナ戦争が早く終結してほしいと思う国は、世界にはたくさんある。グローバルサウスの国々もロシアや中国と事を構えたいと思っているわけではなく、それぞれ自分の国を守るためにどういう外交、安全保障政策をとったらよいかを考えている。そういう国々のリーダーと話をし、グローバルサウスのいわば仲間入りをしながら、世界を平和にするための外交努力をするのが日本の立場ではないかと思う。

 日本の政治リーダーは今こそ自分の身を捨てて、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席に会いに行くべきだと思う。アメリカの許しを得てから行くというのではなく、ある程度の了解を取りながらも、日本の意思として訪問する。北朝鮮の金正恩は日本にシグナルを送っているのだから、勇気を持って北朝鮮を訪問したらよいと思う。それには命懸けでやらないと実現できないわけで、まさに命懸けで行動しなくてはならない時が来ていると思う。(続く)