※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2023年11月30日(木)に行った講演の要約を掲載しています。
習近平体制が固まっているかのように見えるが、決してそうではない。中国には約14億人の人口がいるが、その中で約9,000万人が共産党員である。その共産党員がいわば国家の仕組みの上に位置している。共産党の地方委員は、地方政府の責任者よりも上部にいる。共産党内部の権力闘争が激しいのは今に始まったことではない。中国には、大きな勢力として簡単に言うと三つあると思う。一つは習近平氏のグループ、もう一つは故・江沢民氏のグループ、更に中国共産党青年団のグループである。何のコネもないような人が共産党に入党して出世をしていくためには、共産党青年団に入るしかない。その共産党青年団をまとめて、トップの座に就いていたのが胡錦涛氏である。昨年10月の党大会の時に、胡錦涛氏が習近平氏からひどい仕打ちを受けて、会場から追放された。その時に胡錦涛氏と同じグループの李克強首相はそれを止めることはせず、見て見ぬふりをした。
胡錦涛氏は失脚し、その後の人事で李克強氏も役職を外された。その李克強氏が10月に心臓発作で死去したと中国の国営メディアが伝えた。だが、誰も病死だとは思っていない。誰かの手によって葬られたということは誰が見ても明らかである。中国共産党の要人には主治医が付いており、健康面において厳格に管理されている。従来から心臓疾患があったのであれば、急死なんてあり得るはずがないのだが、上海で突然に亡くなった。上海は、習近平氏にとって一番恐ろしいライバル・江沢民グループがいるところである。江沢民グループは従来から国際金融資本と非常に強い結びつきがあり、それを利用して個人的な蓄財をしている人がたくさんいる。故江沢民氏も中国で一番の金持ちではないかと言われたくらい、海外で資産運用を行って私腹を肥やしていた。
先頃、中国の不動産バブルが崩壊し、不動産大手の恒大集団グループが破綻した。恒大集団はまさに江沢民グループである。上海で大きな力を持っていたから、これを何とかして潰してしまおうと習近平氏が手をつけた。恒大集団の創業者・許家印氏が先日、警察に連行され、中国共産党政治局の常務委員9人に賄賂を贈ったことなど、すべて自供した。もう一方においては、女性の歌劇団を作り、要人の接待をしていた。警察や軍を引退した幹部にも高給を出して、そういう人達をグループに引き込み、警察や軍が言うことを聞いてくれるようなことをやった。習近平氏はそれを徹底的に叩いて、解体させたのである。
習近平氏は全体的な粛清をやっている最中だが、秦剛外務大臣が突如解任され、続いて李尚福国防大臣が解任された。この2人だけではなく、行方不明になり、後になってから辞任したという発表があったりするなど、とにかく大粛清を行っている。しかも、江沢民グループの意を受けて動いていた金融機関に手を入れ、徹底的に潰そうという政策を取り始めている。
ところが、習近平政権は絶対安泰ではなく、彼自身が作った「ロケット軍」幹部3人を相次いで解任して入れ替えた。習近平氏はロケット軍が反乱を企てているのではないかと恐れをもったようだ。
8月に南アフリカのヨハネスブルグでBRICS首脳会議があった。それに習近平氏は出席したが、帰りの飛行機は北京に直行しなかった。どこへ行ったかと言うと、新疆ウイグル自治区に着陸し、そこから鉄道で北京に帰ったのである。自分がロケット軍に狙われているのではないかという恐れがあったからだろう。その後、ロケット軍幹部の大粛清をやった。先日、APEC首脳会議がサンフランシスコで行われたが、その時の習近平氏の表情を見ていると、かなり余裕が出てきたような感じがした。しかし、徹底的に粛清をやって、それがあまりにも行き過ぎれば必ず恨みが残る。また、江沢民グループや共産主義青年団グループが反乱を企てることも十分にあり得る。
一方、中国で地方財政の悪化が加速している。中国の自治体のうち、一つたりとも財政黒字のところがなくなってしまった。最近まで上海と深圳の二大都市がかろうじて黒字だったが、その二大都市もとうとう赤字に転じてしまった。こんなことは文化大革命の最中でもなかった。文革の時に2,000万人が餓死したといわれているが、その時よりも悪い状況になりつつある。地方財政が全て赤字になれば、行政サービスが満足に提供できるはずがない。人間として最低限度の生活が維持できないとなれば、いくら共産党が上から抑えようとしても、民衆が言うことを聞かなくなる。そういう時が来るのではないかと思っている。
中国は絶対安定のように見えるけれど、決してそうではない。ある人の分析では、あと8四半期過ぎた頃に破綻をする可能性があると言っている。中国が内部崩壊するのは決してあり得ないことではない。その時に日本が一番心配しなくてはいけないのは難民である。今は、中国はすべて抱え込んでいるが、内部崩壊をした時には難民がどっと押し寄せてくることが十分考えられる。その時に今の海岸の警備体制、海上保安庁だけではとても対応できるものではない。とにかく大変なことになるであろう。
現在、中国の地方政府の隠れ債務はなんと1,100兆円に達し、日本のGDPの2倍を超えてしまった。また、ある北京大学教授の推計によれば、若年層の失業率は46.5%になり、若い中国人の2人に1人は仕事がなくなっている。かつての日本の就職氷河期でも失業率は5%くらいだったから、それと比べても大変な状況で、最近になって失業率の発表を中止してしまった。
更に海外からの投資も本年4~6月期の前年同期比は87%減少している。上海をロックダウンしたコロナ禍で投資は5割減り、本年1月ゼロコロナ政策を撤回したが、時既に遅く更に減ってしまった。都合の悪い情報は一切公開しないから、中国の解体はある日突然に始まるのではなかろうか。
一方、2022年の日本の貿易相手国は輸出入とも中国が1位であり、中国依存の大企業も多く、売上げの4分の1は中国という企業もかなりある。「中国経済と日本企業白書 2023年」という報告書によれば、中国に進出している日系企業へのアンケートで約9割が事業を維持、拡大すると回答している。このままでは日本は中国と共倒れになってしまうと思う。
1991年12月にソ連が崩壊した時は日ソ間の経済のつながりは強くなかったからあまり影響を受けなかったが、中国崩壊となれば日本は最大の被災国となり、一緒に沈んでしまうことになる。
日本の政治家はこの危機にほとんど気づいていないが、危機はある日突然に発生する。1991年のソ連崩壊、2008年のリーマンショックによる金融危機、2022年のウクライナ戦争、直近のイスラエル-ハマス戦争と同様に、中国崩壊が突然起こることを予想して、政府も個人も万全の備えを進めることが急務だと思う。(続く)