※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2023年11月30日(木)に行った講演の要約を掲載しています。
2024年1月13日(土)に行われる台湾総統選挙は、すでに終盤戦と言ってもよい状況になってきている。先日、立候補者の届け出が締め切られた。
当初は4人が競う構図になりそうだった。今の与党の民進党は、現在副総統を務めている頼清徳氏が候補者として早くから決まっていた。国民党も新北市長の候友宜氏が早くから候補者に挙がっていた。民衆党は前台北市長の柯文哲氏が名乗りを上げることがはっきりしていた。それに加えて、日本のシャープを買収した鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者である郭台銘氏が立候補を表明していた。中国大陸は、台湾の総統選挙を大変重視している。習近平氏が主張している一国二制度を実現するために意の通じる人を総統にしたいという思惑がある。そのいわば代理人的な存在になっているのが前総統の馬英九氏である。私は若い頃から馬英九氏をよく知っているし、台北市長時代には台湾に行けば必ずお会いしていた。決して悪い人ではないと思うが、最近あまりにも大陸に取り込まれすぎてしまっている。このままだと、国民党は馬英九路線に乗って行かざるを得ないと思う。
先日、馬英九氏の側近が大陸に行ったが、野党があまりバラバラになっていると不利になるという大陸の意向が強く働き、4人目の候補であった郭台銘氏が立候補を取り下げた。郭台銘氏は大陸でも企業を展開しているので、圧力がかかれば、言うことを聞かざるを得ない。結局、三つ巴の選挙になった。現時点の支持率を見ると、頼清徳氏がダントツというわけではない。かなり接戦の状況である。柯文哲氏は台北市長を務めた人だから台北市においては非常に人気が高い。副総統を誰にするかも重要だが、民進党の頼清徳氏が総統になった時の副総統候補として、駐米大使を務めてきた蕭美琴氏が決まった。アメリカの大学を出て、英語を流暢に話す人だし、国際的なネットワークを持った人なので、2人で正副総統コンビを作るということでは適任だと思う。
ただ、頼清徳氏は、与党・民進党の中で必ずしも盤石とは言えない。なぜかと言うと、今の総統の蔡英文氏が2回目の総統選挙に出る時に少し人気が落ちていたことから、地方選挙で負け、責任を取って党の主席を辞めた。その後、頼清徳氏が主席になるのだが、蔡英文氏の人気が落ちていた時に、自ら総統選に出ようとして、色々な準備を始めた。蔡英文氏を支援する人達からは、足を引っ張ったのではないかと言われ、蔡英文氏支持者の間で今一つ信頼が得られていない。
その頼清徳氏の支持率は31%、片や候友宜氏も30%を超えるくらいで、かなり接近しており、蓋を開けてみるまではどうなるのかわからない。ただ、台湾のこれからの国際的な立場や経済の発展を考えると、今の蔡英文路線を進めていくのがベストなのではないかと思っている。
それと、「台湾有事」が懸念されているが、台湾の人達が台湾有事を望んでいるわけではない。周りでそれをけしかけている連中がたくさんおり、アメリカにもイギリスにもいる。そういう勢力が台湾有事を拡大させて、今の中東、あるいはウクライナと同じように、アジアにおいて騒乱の元になるような状況を作り、世界戦争に持っていこうとしている。
台湾の人々の多くは、決して戦いは望まない。かといって大陸に吞み込まれたくもない。台湾は台湾、事実上の主権国家、しかも成熟した民主主義国家になっているわけだから、香港のようになりたくないというのは当然のことだろう。台湾有事が起こらないようにするためには、日本として何をやるべきかを真剣に考えて行動することが台湾の人達が一番望むことだと思う。(続く)