※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2022年11月30日(水)に行った講演の要約を掲載しています。

 最近の国内の動きを見ていますと、財務省が日本を滅ぼすのではないかと思えてなりません。月刊誌『文藝春秋』の昨年11月号に当時の財務事務次官だった矢野康治氏が『財務次官、モノ申す』と題する論文を寄稿しました。矢野氏はその論文で文藝春秋読者賞を受賞しています。

 本人はそれが自慢かもしれませんが、ちょっと考えていただきたいのです。財務省の事務次官は国家財政を預かる責任者、事務方のトップです。その人が「このままでは国家財政は破綻する」と言っているのです。要するに自分達がいかに能力がないかということを天下に晒しているだけではないでしょうか。

 矢野氏は「大量の国債発行が日本を滅ぼす」と言うわけですが、それならば国の予算編成の実務を担う財務省がどうして自ら国債の発行を減らそうとしないのか、政治から「国債を発行しろ」という圧力がかかった時に、体を張って反対した人が財務省にいるでしょうか。唯々諾々として従っておいて、「このままいったら財政破綻する」と氷山に向かって突進しているタイタニック号に喩えているのです。

 氷山(債務)がどんどん大きくなっている。しかし、霧に包まれて今は見えないからその時期は明確には言えないが、このままでは間違いなく破綻すると公然と言っているわけです。評論家が言うのならまだしも、国家財政の責任者がよくそんなことを言うなと思います。いくら何でも歴代の財務事務次官にそんな見識のない人は一人もいませんでした。それを許しておく政治も政治です。

 例えてみれば、大手上場企業の経営者が記者会見やテレビの番組で「我が社はいずれ間違いなく破綻します」と発言したらどうなりますか。物を作っている企業だとしたら、そんな企業の製品は誰も買いません。また、そんな会社にお金を貸す銀行もないでしょう。更には株価も暴落するでしょう。そういうことを言っておいて平然としているのですから、財務事務次官も落ちるところまで落ちてしまったなという気がしてなりません。

 私は、安倍晋三元首相が亡くなられたことは大変残念なことだと思っていますし、ああいう形で命を絶たれてしまったことは政治家として無念であったと思います。しかし、安倍元首相が亡くなられたことと、約8年にわたる安倍政権の取った政策が正しかったのか誤りだったのか、国民にとってどうだったのかと総括することは別の話だと思っています。

 私は、安倍政権の政策には決して賛成できませんでした。外交・安全保障もそうです。もし、あれだけ世界各国を駆け回って各国首脳との親交を深めたのならば、ウクライナ戦争についてももっと早くアクションが起こせたはずですが、そういうことも一向になされませんでした。

 財務省に関連してもっと言いますと、バブル崩壊以前、日本のGDPが世界第2位という時期がありました。その当時、世界全体のGDPの20%を日本経済が占めていました。ところが、バブル崩壊以降、日本の資産が約半分に減ってしまいました。日本企業は長期不況に陥らざるを得ない状況になり、GDPはほとんど成長しませんでした。当時、「失われた10年」と言われましたが、それどころか、「失われた20年」「失われた30年」になっています。世界各国が軒並みGDPを大きくしている中で、日本だけが止まったままです。

 そうした中で、貧富の格差はますます広がってきています。これは竹中平蔵氏を中心にした、いわゆる新自由主義を信奉する人達が間違った政策を導入してしまったことによるものです。今やGDPは辛うじて世界第3位ですが、第2位の中国の3分の1にも満たず、第4位のドイツとほとんど同じ水準になってきています。1人当たりGDPは、人口数十万人の小国ルクセンブルグが以前から第1位ですが、かつて日本はルクセンブルグと争うような水準にありました。ところが今や日本の1人当たりGDPは世界の27番目にまで落ち込んでいます。

 国民は間違いなく貧困化の方向に向かっています。かつて我が国の経済成長のもととなる大きな個人消費の担い手であった中間所得層が所得を減らして低所得化し、低所得層はますます貧しくなっています。したがって企業も国内需要がないので設備投資をしません。ですから、企業が設備投資をするためのお金を借りようとしないのは当然のことです。

 また、新しい製品を作るための思い切った技術開発投資もなかなか思うように伸びていません。それを補うような政府の研究開発投資が進んでいるかというと全く不足しています。次世代の情報通信システム、5Gや6Gと言われていますが、5Gに関する世界特許の申請数を見ると中国がダントツで、日本はすっかり遅れをとっております。また、各国の国立大学ランキングによると、かつて東京大学はかなり上位にランクされていましたが、今や東大のランキングは大きく落ち込んでいます。すべてにおいて日本の国力が低下していることを表している数字だと思います。

 そもそもどうしてそうなったのでしょうか。これはデフレに陥って、それを解消するための適切な経済財政政策が実行されないまま今日まで来てしまったことが要因です。私は経済学者ではありませんが、デフレがどういう現象なのかはわかります。申し上げるまでもありませんが、需要と供給とのバランスがとれなくなって、総需要が落ち込み、供給が大きくなっているので、物価が下がる。需要が減り、製品が思うように売れないのですから製造業が設備投資をするはずがありません。積極的に雇用を増やしたりするはずもありません。中小企業の場合は特にそうですが、コストを下げなくてはいけないので、人員削減を進め設備の稼働率を下げたり、廃棄したり、更には工場も閉鎖したりしている状況があちらこちらで出てきているわけです。(続く)