本年は昨年来のISの活動をはじめ、シリア、イラク、トルコ等中東情勢の混乱が続き、更にはヨーロッパ各地におけるテロ事件の続発やイギリスの国民投票によるEU離脱、アメリカのトランプ次期大統領の当選等世界中で目まぐるしい動きが展開されたが、現状は昨年暮れに私がこのコラムで述べた通りの世界情勢になってきたのではないかと思う。またその一方で、いよいよ金融資本を中心としたグローバル経済が終焉を迎え、そのことによって生まれた負の遺産をいかに解消するか、とりわけ富の偏在と格差の拡大をどう解消するかが世界的な課題になってきたと思う。
もともといわゆるシカゴ学派といわれるフリードマンを中心にした一部の学者達の学説を政治に取り入れ、1980年代にレーガン、サッチャーという米英のリーダーがそれを活用して様々な規制を取り払い、より自由な経済活動を活発にし、社会を活性化するという政策を実行して、一時はレーガノミクス、サッチャリズムとしてもてはやされた。特にサッチャーは官の役割を減らして、できる限り民間中心の経済に持っていこうとした。その政策の失敗が批判されはじめていたにも関わらず、我が国では小泉元首相が構造改革を提唱し「官から民へ」と叫び、その政策を竹中平蔵氏に丸投げした。その典型が改革の本丸と位置付けられた郵政民営化だったわけである。グローバル経済による米英の失敗が見えていた中でわざわざ構造改革に突き進んだことにより、大変なエネルギーの損失とともに国民も取り返しのつかない大きな損失を被ったのである。
あの当時、私は「何でも民営化すればいいものではない。何の為に官があるのか。官と民との役割分担をもう一度きちっと整理すべきだ。」と主張した。その上で民がやるべきものを官がやっているということであれば、その部分を民営化するのは理解できるが、すべて官が悪で民が善だと言わんばかりの政策を実行したのである。その結果、日本の社会が完全に壊れてしまい、結局、様々な規制緩和や非正規雇用の拡大によって利を得たのは大企業と一部の資産家だけであり、日本においても富が偏在し、格差が拡大してしまった。
前述したように今、アメリカにしてもヨーロッパにしても格差社会をどう解消するかが大きなテーマになっている。あの当時を振り返ってみれば、日本は先進国の中で最も格差が少ない国だった。中間所得層が大きな消費力を持っていたから、日本のGDPが大きくなったわけだし、一億総中流と言われる中で国民の多くの人達がある程度の充足感を持てる社会になっていた。言ってみれば、世界の成功モデルになるような社会をつくってきていたのに、それを壊してしまったのだから、小泉政権以降の今日までの政権は、日本にとってマイナスなことばかりやってきたように私からは見える。今、先進国はもとより、どこの国でも、グローバル経済によって壊された国内の社会構造をどうやって再構築するかに目を向けていかざるを得ない状況になっている。民の行き詰まりは見えてきているわけで、自ずから官や公の役割が大きくなってこざるを得ない。
アメリカが今、金利を上げ始めている。FRBが先日0.25%の引き上げを決定し、来年は3回引き上げをすると公言している。アメリカの金利が上がることは世界経済に大変な影響を与える。特に金融機関がすぐに影響を受け、ドルで目いっぱい資金調達をしてきたような世界の金融機関が皆回らなくなってくる。既に顕在化しているのはイタリアで、5つの銀行が危なくなってきている。世界最古の歴史を持つイタリア第3位のモンテ・パスキ銀行が経営危機ということで、一時は産油国のカタールが支援するという話もあったが、結局国が公的資金を投入することになった。民間の協力ではとても再建不可能な事態になれば、国が支援するより仕方がない。EUではもともと銀行救済は国がやらない、民間どうしで共助していくという理念があるが、そんなことは言っていられない。金融機関がもたなくなったら国民生活が成り立たなくなるわけで、国を挙げて金融の仕組みを守らなくてはいけない状況になっている。これはイタリアばかりではなく、スペインもポルトガルも同様の状況に陥っている。トルコでは先日、ロシアの大使が射殺されるという大変痛ましい事件が起きたばかりだが、トルコも通貨のリラがどんどん下落している。
一方、アメリカはちょうどサブプライムローンの破綻やリーマンショックの時とかなり似たような状況になっている。近年、不動産や自動車産業がアメリカ経済を牽引してきたようだが、金利が上がってくると住宅ローンがまたもたなくなってくる。自動車もローンで買い込んだ人達が手放さざるを得なくなってくるだろう。サブプライムローンやリーマンショックの時と同じように、生活破綻者が続出してくることになるだろう。
日本も既に国債の金利が上がり始めており、長期金利ばかりでなく、中期、短期の金利も上がるということになったら、国民の生活設計が成り立たなくなってくる。もともとほとんどの国民が借金を抱えており、一般のサラリーマン家庭でも職場が安定していて、毎年ある程度の所得が増えていくという前提で長期の借金をしているわけである。金利が上がる一方で所得は全然増えない。職場も不安定でいつ解雇になるかわからないという状況になったら、続々と生活破綻する人が出てくるだろう。
東京だけを見ると、オリンピックを控えていることから、競技場の施設の建設予定地の周辺では不動産の価格が上昇している。また高額の超高層マンションがどんどん売れてきたという状況だが、これもいつまでも続くようなものではない。不動産を売り買いしながら富を蓄えていこうという一部の人達もいるが、これからそういう人達のやりくりが全然つかなくなってくると思う。こうなると、日本においても公的な支援が求められてくる場面が出てくるのではないかと思う。国の歳入、税収が増えない中で、ますます国に対する期待が大きくなってくるということになると、かつて日本の戦後復興の為に大きな役割を果たした財政投融資の役割をもう一度見直すことも必要になってくると思う。しかし財投の主な原資となっていた郵貯、簡保がすでに民営化され、その資金はどんどん海外に出て行ってしまっている。
先日、国会で通した補正予算にしても、いわゆる真水の部分は少なく、財投にかなり期待せざるを得ないような状況になっている。民が善で官が悪だと言っていたことが、全くそうではなかったと証明するような姿になっている。政府系金融機関の役割をはじめ、政策金融が重要なのだということが改めて再認識されるようになってきている。
小泉氏は「自民党をぶっ壊す。」としきりに言っていたが、当時、私は「自民党を壊すだけならいいけれど、日本を壊してしまう。」と言い続けた。まさにその通りになってしまい、かつての健全な自民党は完全に壊されたようだが、それよりも日本の社会そのものが壊されてしまった。これを再構築するのは並大抵の努力ではできない。最近、安倍内閣の姿を見ていると、いよいよ支離滅裂というか、一貫性が全くなく、何か行き当たりばったりで少しでも点数稼ぎをしておき、選挙に持ち込もうとしているようにしか見えない。
先日、ロシアのプーチン大統領が山口県長門市を訪れ、安倍首相との日露首脳会談に臨んだ。今回の会談で、国民は将来に向かってかなりの成果が得られるだろうと期待をしていたけれど、全くの期待外れとなった。1956年の日ソ共同宣言よりも更に後退してしまったという見方をしている人も少なくない。2人の密室の話の中では領土問題に触れたのかもしれないが、少なくとも表には全く領土ということが出てこない。プーチン氏は以前にも北方領土問題について、柔道で言う「引き分け」だとしきりに言っていたが、引き分けどころかプーチン氏のいわゆるタフネゴシエーター、強かさが鮮明に示されたという印象である。ロシア側は今回の交渉で何も失っていない。北方四島において「特別な制度」をつくって、経済協力をしていくことを決めたというけれど、主権の問題は全く表に出てこない。ロシアは絶対に主権を譲っていないわけで、主権がロシアにある中で「特別な制度」ということになると、ロシアにおける特区制度のようなことしか想定できない。「特別な制度」の下で、仕事をする一部の日本企業やその企業で働いている人達にとっては恩恵があるかもしれないが、その企業が儲けたからといって国民に還元するようなものではない。国民全体からすると、ロシアにいいように利用されてしまうようにしか見えない。しきりに将来の領土返還に道を開くものだと強調している人達もいるけれども、冷静に見れば完全にプーチン氏の一人勝ちとしか見えない。国民が拍手喝采するという状況ではなかったから、年内解散には踏み切れなかったのではなかろうか。
安倍首相は、アメリカのオバマ大統領の最後の花道づくりという意味なのかも知れないが、12月26日(月)~27日(火)の日程で慰霊の為に真珠湾を訪れた。これも太平洋戦争の時の真珠湾攻撃を巡る裏の色々な動きを調べてみれば、今この段階でわざわざ日本の総理が訪問するというのはいかがなものかなと思う。TPPにしてもなぜ強引に国会で承認するようにしたのか、アメリカの次期大統領のトランプ氏はTPPから離脱すると言っているわけだし、もともと推進をしてきたニュージーランドの首相も突然辞めてしまった。TPPが本当に日本の為になるのかどうか、交渉過程が表に出ていない部分がたくさんある。原発の問題も沖縄の問題も全く迷走状態である。オスプレイの事故を「墜落」ではなく「不時着」だと言って強弁する。アメリカに抗議をしてもアメリカは事故原因も明らかにしないまま訓練を再開させる。
安倍首相は来年の早い時期に解散を断行して、長期政権を狙う考えなのかもしれないが、お膝元の都議会で公明党が自民党と離れることになってしまった。もともと都議会における自公の協力関係が国政に発展していったわけで、公明党は都政を重要視している。公明党は次の都議会選挙に向けて、今人気のある小池知事と何らかの形で関係を持っておきたいということの表れだと思う。そういう中で、解散のタイミングを捉えるのはなかなか難しいのだろうが、早くやってしまわないと都議会の選挙が迫ってくるし、選挙区の区割の改正も周知期間を取らなくてはいけないことから解散が難しくなってくる。しかも経済状況が悪くなる可能性が強いということがハッキリと見えてきたら選挙を打てなくなる。従って1月の通常国会を召集して、できるだけ早く解散をしようと考えているように見える。(続く)