※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2024年11月28日(木)に行った講演の要約を掲載しています。

 アメリカという国を理解しようとすると、マスメディアで時々「イギリス守旧派」という言葉が出てくる。ウクライナ戦争が始まった時に、トルコのエルドアン大統領が心配し、早く終結させないと世界戦争に発展する恐れがあると調停に入った。その調停案がまとまり、いよいよ手打ちという段階になった時に、イギリスのボリス・ジョンソン首相(当時)が、イギリス守旧派の遣いで、アメリカにも圧力をかけて調停案を壊した。イギリス守旧派には、世界の一元支配を考えている人達がいる。その人達の背景にあるのはお金である。世の中の流れ、動きを見る時にフォロー・ザ・マネー、お金の流れ、お金の動きを追っていくと本当の姿がわかると言われている。

 20世紀においてイギリス守旧派は、物の生産は労働賃金の一番安い国で行い、それを消費力のある国に売り、そして儲けたお金は税金を払わず、いわゆるタックス・ヘイブン(租税回避地)に貯め込む。そのイギリス守旧派の存在に気が付かないと世界は見えてこない。その連中がアメリカに指令して世界を動かす。その時にどこを使うかというと、彼らがもともとつくっていたイギリス王立国際問題研究所のいわば下部組織のアメリカのCFR(外交評議会)である。イギリス王立国際問題研究所も外交評議会も、もともと第一次世界大戦の後に、当時のリーダー達が集まって、戦後の処理と二度と戦争を起こさないための仕組みづくりという大義名分で設立した。ところが、アメリカのCFRは今や影の政府と言われている。常にそこから多くの閣僚を送り込んでいる。またウォール街を支配している。ウォール街とホワイトハウスの間には“回転ドア”があると言われており、自由に出入りできる状況をつくってしまった。そのCFRをつくったのがイギリスの守旧派と言われている人達なのである。

 CFRは1921年、フランスのパリで設立会議が行われた。その時に出席したのがロックフェラー、モルガン、ウォーバーグ、ハリマンなど。その連中がイギリスの守旧派、王立国際問題研究所と連携しながらアメリカの国策を長く続けてきた。第一次世界大戦、第二次世界大戦、いずれもヨーロッパが戦場であって、アメリカは全く戦場になっていない。二度の大戦で一人勝ちをしたのがアメリカである。そのアメリカを使って第二次世界大戦後の世界支配体制をつくろうと、1944年にブレトン=ウッズ会議が行われた。そこでIMFや国際復興開発銀行、今のWTO(当時はGATT)の発足が決まった。大きな国力を持ったアメリカを使いながら世界を支配していこうという戦略がずっと続いて80年が経過した。トランプ氏の大統領就任によって、それがいよいよ変わる時が来た。果たしてトランプ氏がどこまでやれるのか。アメリカのディープステートとは正面切って対峙すると思う。しかし、アメリカのディープステートの奥にもっと大きな勢力があることをトランプ氏は知っている。そこまでやれるかどうか、大変なことだと思う。したがって、思いがけないような世界を震撼させる出来事が次々と起こってくる予感がする。

 大きく整理をすると、世界はグローバリズムとナショナリズムの大きなぶつかり合いの時代に入っているのである。グローバリズムは、左翼グローバリズムと無国籍企業のグローバリズムが協力したグローバリズムである。それに対抗するのに、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」と言っているが、ナショナリズムをどう守っていくか。

 私は、インターナショナルな社会は常に必要だし、その中で秩序を保つのは大事だと思うけれど、インターナショナルはナショナリズムがあった上でのインターナショナルである。しかし、グローバルは違って、国境をなくして世界政府をつくって一元支配をしようということなので、発想そのものが全く違うのである。

 私は、白樺派作家の武者小路実篤の「人は人 我は我 されど仲良し」という言葉が好きだが、全世界80億人を超える人類の各々の個性はすべて違う。その個々人の個性が集まって、長い歴史を通じて民族や国家を形成して固有の歴史、固有の伝統文化がつくられてきたわけである。それをお互いに尊重し合った時に初めて平和な社会を構築できる。ところが、世界を全て一色に染めてしまうことが最終的な平和な社会だと思っている勢力がおり、それに対してトランプ氏が「アメリカ・ファースト」と言ったことは非常に意味がある。

 ロシアのプーチン大統領は完全なナショナリストであり、彼は昨年6月の演説で「全体主義に反対。ディープステートに反対。無国籍グローバリズムに反対。」と述べている。その意味では、トランプ氏とプーチン氏は同じ価値観を持っている。

 世界を一元化していこうとする連中は、裏で色々な会議をやっている。例えば、毎年スイスで開かれるダボス会議。グローバリズムに反対するプーチン大統領もトルコのエルドアン大統領も、ハンガリーのオルバン首相もかつて招かれたことがあるが、その後は対極的立場から強く批判している。そういう反グローバリズムのリーダー達が自然に意を通じ合うようにして、それにグローバルサウスを上手く引っ張り込んでいくことになれば、ディープステートの思うような形にはならないのではないかと思う。そこに至るまでにはまだまだ色々な道筋があるだろう。

 もう一つ、注意しておいていただきたいのは、1954年、オランダのユリアナ女王の主人、ベルンハルト王配がEUの統一を推進した政治運動家ジョセフ・レティンガーと力を合わせてビルダーバーグ会議を設立した。最初の会議が開かれたオランダのビルダーバーグホテルが名称の由来となっている。ヨーロッパを中心に毎年1回開催されており、メンバーは、ヨーロッパ各国の王室、王族、貴族、多国籍企業のトップ、多国籍金融機関のトップ、国際機関のトップなどが集まる。大事なことはだいたい、この会議で決まるので、そこを見ているとその後の世界が見えてくる。ベルンハルト王配は20年以上議長を務めた。ロッキード事件の時に少し関わっていたことがスクープされて、責任をとって辞めた。その後、イギリスの元首相アレック・ダグラス=ヒューム、西ドイツの元大統領ウォルター・シェール、イギリスのエリック・ロール、イギリスのピーター・キャリントン男爵、ベルギーのエティエンヌ・ダヴィニオン子爵、現在はフランスの元AXA会長兼最高経営責任者のアンリ・ドウ・キャスト―ルが議長を務めている。これら議長の顔ぶれを見ても常にヨーロッパ主導なのである。

 ビルダーバーグ会議のメンバーだったデイビッド・ロックフェラーが1960年代の終わり頃に、世界的にも大きな経済力を持つようになってきた日本もメンバーに加えようとして、オランダの王室や主要メンバーに提案した。そうしたら「やめてくれ」と、アジア人は一切入れない、日本人も入れないということだった。

 そこで、デイビッド・ロックフェラーは、ビルダーバーグ会議に連携する機関として、「日米欧委員会」の設立を提案し、了解を得て、それを進めることになった。私自身の思い出の一つだが、当時デイビッド・ロックフェラーに極めて近い私の親友が「彼から日米欧委員会に日本の有望な自民党の政治家を入れたいので紹介してほしいと頼まれたから、あなたのことを推薦しておいた。」と言うのである。その後、駐日アメリカ大使を務めていたホドソン氏(当時)から会いたいという話があった。私はそういう組織の背景を学生時代から勉強して知っていたので、彼らの手先になるのは嫌だったので彼を通じて丁重に断った。その時に日本側のメンバーとして入ったのは、宮沢喜一さん、加藤紘一さん、大来佐武郎さん、小林陽太郎さんなどである。日米欧委員会は現在「三極委員会」と言われているが、目に見えないところの限られた人達で世界をどうするかが話し合われている。その現実をもっと日本の政治家には勉強してほしい。(続く)