※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2024年5月30日(木)に行った講演の要約を掲載しています。

 岸田首相は先般、”国賓待遇“で訪米した。メディアもやたらに”国賓待遇“だと宣伝したが、国賓待遇でも何でもない。そういうふうに見せただけである。要するに、岸田首相がアメリカの言うことをよく聞いてくれたので、いわばその”ご褒美“みたいなものである。これを仕掛けた中心人物がラーム・エマニュエル駐日米国大使である。本来、国賓待遇で訪米すれば、それ相応の高官が飛行場に出迎えるのは当然だが、誰も出迎えがいない。エマニュエル大使が先にワシントンに行き、出迎えているだけで、他の政府高官は全くいない。そして、国賓を迎える晩餐会であれば、参列者は当然、正装してくるはずだが、タキシードを着ていたのは岸田首相だけで、バイデン大統領をはじめ招待客や他の高官もみんな揃って平服だった。

 岸田首相が議会で演説して15回も拍手があったと言うが、アメリカの言うことをなんでも聞いているのだから、拍手が起こるのは当然のこと。悪い冗談だと思うのが、「日本の国会では、こんなに多くの拍手を受けることは、まずありません」と発言したことで、要するに日本の国会でいかに人気がないかということをアメリカに行ってわざわざ言っているようなもので、こうしたことも見識を問われなくてはいけないと思う。

 極め付きは、国賓待遇で首脳会談を行ったのなら、当然、共同記者会見をやらなくてはいけないのだが、共同記者会見は開かれなかった。要するにご褒美として招待したということだから、バイデン大統領の方も話すことがない。軍事予算を大幅に増やしてアメリカの兵器を買い込む、そしてウクライナの支援をする。更にアメリカ国債を大量に引き受けるといった金目の話で言う通りになったから、いらっしゃいということだったと思う。

 しかし、当の岸田首相は、アメリカに行ってものすごく歓迎されたと思っている。厳しい政局に臨んでも岸田首相に本当の危機感があるようには思えない。考えているのは、首相をいかに長くやるか。だから9月の自民党総裁選は何としてもクリアしたい。それをクリアするためには、その前に選挙を行いたいということだろう。たとえ負けることがわかっても、比較第1党の立場が維持できれば、連立を組めばいい。公明党と組むか、あるいは日本維新の党、国民民主党を引っ張り込むか、色々なパターンがあるだろうが、岸田政権が維持できればいい。

 一方、自民党内の方は岸田首相に早く交代をしてもらいたい。9月の総裁選で総裁を交代し空気を変えてから、選挙をやってほしいということなのだろう。その岸田首相に替わって、この人ならばという人がいるかというと残念ながら見つからない。だから、岸田首相は自信を持っている。総理の座を一番狙っているのは茂木敏充幹事長かもしれないが、党内でそれを歓迎する空気はない。そして、石破茂さん、河野太郎さん、あるいは小泉進次郎さん達も一般的な人気はあったとしても、党内でこの人ならばという動きが出てくるわけではない。それがまた岸田首相を楽にさせているということだと思う。

 今、一部で言われているのは8月4日(日)総選挙。東京都知事選が6月、パリオリンピックが7月から8月にかけて開催される。それに影響を与えることはやりたくないだろうから、政治評論家などがいろいろとスケジュールのやりくりを探ってみると、9月前に実行するとしたら8月4日(日)しかないというで、それを信じて既に動き始めている人達もいる。

 9月の総裁選で岸田首相の続投でいいという党内の雰囲気ができれば、岸田首相も無理に厳しい選挙に突っ込むことはない。その辺の駆け引きが今後どうなってくるか注目したい。

 今、自民党内をまとめられる人がいなくなってしまったということで、党がどっちに向かうかわからない状況になっている。派閥を解散したので派閥の縛りがなくなり、個々の議員は自由に自分の意思で動けるはずである。党内で「新しい政治勢力を結集しよう」、あるいは「党を割ってでも意思を貫いていこう」という動きが当然出てくるような状況であるにも関わらず、何にも動きが出てこない。いよいよ日本の政治は大変なことになってしまったなという思いがしてならない。私は与野党を問わず、志を持った人達に声をかけて定期的な勉強会を開いており、また野党の方々だけの勉強会も開催しているが、その中から、高い志を持って日本のために力を尽くす人が出てきてほしいと期待をしている。(了)