新型コロナウイルス感染症が依然として収束しない中、変異ウイルスの感染が拡大しており、国民の不安はますます大きくなっています。政府は右往左往するばかりで、東京オリンピックについても未だに見通しが立っていません。IOCは商業主義そのものですから、緊急事態宣言下にあっても、何ら変更なく開催するとの方針を示していますが、国民の多くが「開催すべきではない」との考えを持っており、国民に歓迎されない状況の中で無理してオリンピックを開催することの意義が果たしてあるのでしょうか。海外から選手を送り出そうとしている国々も十分な準備ができているとは思えません。どれだけの国がどれだけの選手団を送ってくるのか、それもよくわかりません。決定権はIOCにあるので、日本政府としてはその決定に備えているということかもしれませんが、主催国として当然言うべきことは言わなくてはいけない時期に来ています。菅首相をはじめ、政府の対応はとにかく決断力がなく、中途半端と言わざるを得ません。

 昨年、新型コロナウイルスが蔓延し始めた時、当時の安倍政権は中国の習近平国家主席を何とかして国賓として日本に招きたいという意向が強く、また東京オリンピック開催への強い思いがあり、そのことを最優先してコロナ対策をやろうとしたわけですから、最初からうまくいくはずがありません。初動態勢を誤ったことによるツケがすべて回ってきているように思います。ワクチン接種の加速化を図ると言っても、なかなか思うように進みません。厚生労働省はファイザー製だけではなく、モデルナ製とアストラゼネカ製のワクチンを特例承認しましたが、どういう副反応があるのか、効き目がどのくらいあるのか、治験の実績を重ねた上での承認ではないわけです。言ってみれば、ワクチンの接種問題は製薬会社とWHOと各国政府の思惑が絡んだ不純なものを含んでいるように感じます。

 こうした混乱の中では、日本の経済もよくなるはずがありません。GDPも先進国と比べて際立って落ち込んでいます。一方、政治は待ったなしの状況で、近く衆議院議員の任期満了を迎えます。最近は与党内部でも解散を恐れて、菅総理の下では選挙が戦えないという声も囁かれるようになってきています。さりとて、それに代わるべき人がいるのかどうか、いつどういうタイミングで代えることができるのか、全くわかりません。菅総裁の任期は安倍前総裁が任期途中で退陣したことによる残任期間を担当する暫定総裁なのだから、菅総理が解散総選挙に打って出るというのであるならば、その前に総裁選挙を実施して、正式な総裁に選ばれた上で、そのリーダーシップの下に国民に信を問うことにならないと筋が通らないといった内容の怪文書も出回っています。そういうことを怪文書のような形でしか言えないところに、今の自民党の限界がきていると思います。党内でそうした議論をしっかりやるべきであって、何も執行部に遠慮する必要はないわけです。以前の自民党であれば当然そのような動きが出てきたと思います。自民党一強のようなことが言われている中で、本来は自民党内に健全な批判勢力が出てこなくてはいけないのですが、残念ながらそれが出てきません。

 さて、郵政が民営化されて16年が経つわけですが、何ひとついい話が聞こえてきません。私が政治生命を賭けて郵政民営化に反対した当時のことを振り返ってみても、残念ながら今の状況はすべて予測できていたことなのです。最近はかんぽの不適正募集問題、郵便局員による横領事件、郵便局での個人情報紛失など、次から次へと不祥事が明るみに出てきています。一方、鳴り物入りで株式上場した日本郵政グループ3社の株価は、上場当時の半値くらいに落ち込んでおり、一向に上がる気配がありません。経営陣はそれなりに頑張っているのでしょうが、将来展望がなかなか見えてきません。先般、日本郵政グループが公表した新中期経営計画を見ても、目玉になるようなものが出てきているわけではありません。また、郵政民営化委員会の意見書が公表されましたが、日本郵政グループ各社の連携、グループガバナンスの強化を一方に置きながら、金融2社の保有株式を50%にした段階で、全株式処分に向けた方針やロードマップを明らかにするよう求めており、まるで矛盾したことを平然と述べています。国民のため、利用者のため、社員のためといった視点が全く出てこないのは残念です。

 私は、政治が判断を間違えたのだから、政治がそれを正す以外に方法はないと言い続けてきました。経営者にどんな優秀な人が座っても、局長や社員の皆さんがいくら努力をしても、誤った制度設計の下では何をやってもうまくいくはずがないのです。小泉政権が進めた郵政民営化とは一体何だったのか、ここでもう一度振り返って検証しなくてはいけません。特に郵政、郵便局の現場で頑張っている皆さん方、またOBの方々は、そういう流れがよくわかる立場にいるわけですから、郵政民営化の問題をしっかり掴まえ直す必要があると思うのです。

 やはり経営形態の再見直しが必要であり、特に24,000の郵便局ネットワークを持つ日本郵便がしっかり利益を上げていけるようにしていかなくてはなりません。日本郵便は日本郵政が100%出資した会社であるわけですから、日本郵政と日本郵便を一体化し、その傘下に子会社としてゆうちょ銀行とかんぽ生命保険を位置付ける。そして金融2社の株式の3分の1超は、日本郵政が持ち続ける。こうすれば金融二社に対して日本郵政の指導力が効くことになります。こうした経営形態の再見直しをどう実現するのか、まさに政治の問題になってきます。野党が今まとめつつある郵政改革案に沿った民営化法の再見直し法案をまとめて、与党の人達にも呼びかけて協力を得ながら実現させる。これを急がないと郵政の環境は悪化の一途を辿るばかりです。