※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2020年11月16日(月)に行った講演の要約を掲載しています。

 今年の年末から来年は世界恐慌に見舞われてくる感じがしてならない。世界恐慌の中で日本の国民生活をどうやって守るかを考えなくてはいけない時である。コロナを封じ込めようとすると経済は思うようにいかない、経済を重視するとコロナの感染者が増えてくる。こういう時こそ、政治家は思い切ったことを実行しなくてはいけない。まさに戦争を戦っている時と同じような状況であり、戦時財政を取るべきなのである。

 1904年に日露戦争を始めた時に、日本には資金がなかった。当時、日銀副総裁だった高橋是清が海外からお金を借りようと思って海外を駆け回ったけれどどこも貸してくれない。同盟国のイギリスも冷たい。そういう時に、足元を見て日本の国債を買ってくれたのがクーン・ローブ商会のジェイコブ・シフ氏である。当時の日本の国家予算の25年分、GDPの2年半分という巨額の国債を彼が引き受けた。もちろん法外な金利をつける。当時は60年で返済する計画を立てたのだが全然返しきれず、結局、返し終わったのは82年後の1986年、中曽根内閣の時である。

 まさに今は戦争を戦っているのと同じ状況になっているわけだから、戦時財政を頭において対策を取るべきなのである。10万円の特別定額給付金を1回配ったぐらいで“やった、やった”というのはとんでもない話で、私は何回でも配るべきだと思っている。また多くの企業の休業補償や雇用補償、失業対策のために思い切って国費を使うべきである。そのための財源がないと財務省は言うが、財源はないわけではなく、国債を発行すればよいのである。国債の大量発行はハイパーインフレをもたらすと財政の均衡ばかりを考える財務省は猛反対をする。しかし、そんなことで財務省の庭先がきれいになって、国民が困窮して命を失うということになったら、政治は一体何の責任が取れるのかを考えるべきだと思う。

 一昨年、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が「MMT理論」(現代貨幣論)を明らかにした。日本のバブル崩壊以降の財政、金融政策を見て、自分は確信を持ったと言っている。それはどういうことかというと、中央銀行があって自国の通貨を持っている国が破綻をすることはあり得ないということである。

 今、日本は海外で国債を引き受けてもらっているわけではなく、国内で消化している。日本は借金で大変だと言うけれども、それは財務省の借金であって国民の借金でも何でもない。国民1人あたり800万円以上の借金があって大変だ、後世につけを回しては大変だから消費税に協力してほしいと言うけれども、あのぐらいいい加減な嘘はない。なぜかというと、国債を発行して財務省が国民から借金しているのであって、国民が借金しているのではない。負債というのは貸借対照表でもわかるように片方に同額の債権がある。債務者である政府の一方に債権者がいるわけで、それは誰かというと市中で国債を買っている金融機関、その金融機関の原資になっているのは国民の預貯金なのだから、国民が債権者なのである。

 国債というのは日本が破綻して国家がなくならない限り最も安全な金融債券であり、国債を買った人達にすれば一番優良な金融資産なのである。しかも今は日銀が市中からどんどん国債を買っている。市場を通じて間接的に日銀が政府に金を貸しているのだから、政府は当然その利子を払わなくてはいけない。したがって国債の利子は常に日銀に入ってきている。日銀の決算を見ると赤字ではなく、黒字である。その黒字の中から国庫納付金を政府に払っている。実態的に親会社と子会社の関係にあるのだから、連結決算によって財務省と日銀を一体としてみた場合、何も心配することはないのである。

 今、何が最大の問題かと言うと、日本のGDPが大きくならないことである。先進国の中で日本だけが成長が止まって、どんどん差が広がっている。GDPの中心になっているのは個人消費だが、可処分所得が減ってしまって家計に全くゆとりがない。仕事もなくなってくる。もとより貯金もできない。その上、社会保障はお先真っ黒、こんな状況ではお金があっても使わないし、使いたいと思っても使えるお金がない家庭がどんどん増えている。こんな状態では個人消費が伸びるはずがないからGDPは大きくならないのは当然である。

 個人消費が盛んになって需要が拡大しなければ企業は設備投資をしない。一部の大企業が儲かっても内部留保が大きくなるだけで、需要がないところに投資をするはずがない。

 デフレというのは需給のバランスが崩れて供給過剰になっているから物価が下がるというのが単純な解釈だが、だから供給を抑える、供給を減らすことでバランスを取り直せばデフレは解消できるという考えで今日まで政策を進めてきた。しかし、需要が減ってきているところに合わせて、供給を減らしていけば日本の経済はどんどん縮小していく。そうではなく、供給過剰であれば、それを十分に消化できる需要をつくることが一番大事なのである。だから拡大均衡を目指さなくてはいけない。そうしなければGDPは大きくならないし、インフレ率2%を達成できるはずがない。デフレ解消のために内需拡大のための思い切った経済財政政策を実行すべきなのに、それをやらずに日銀主導の量的緩和という金融政策だけに頼った結果、未だにデフレは解消はできていない。

 そもそも長期にわたって官民両方の投資が足りない。民間は国内の需要がないのに設備投資はしないから、民間の投資が落ち込むことは当然だろう。したがって、こういう時こそ公共投資が大事なのである。公共投資の財源としては建設国債がある。政府が国民からお金を借りて事業をやった結果として、鉄道や港湾、道路、トンネル、橋などの公共基盤施設が国民の資産として残るのである。それを国民が利用して経済活動を盛んにしながら今日まで経済発展を続けてきたのである。

 私は現職の時に予算委員会で、当時の財務大臣に次のことを申し上げた。「クリントン政権が発足した時には前のレーガン政権がつくった巨額の財政赤字を背負っていた。当然、皆は緊縮財政をやるだろうと思っていたが、クリントン政権は緊縮財政をやらず拡大政策をとった。まずその前に思い切って所得減税を実行したのである。家庭を少しでも豊かにすることによって、個人消費を増やしていく政策をとると同時に、公共投資を思い切って増やした。その結果、その二つがうまく回って、経済が急成長し、財政が黒字になり3年で財政赤字を解消した。日本もそのことに学ぶべきだ」と言ったが、大臣も外務省も全く聞く耳を持とうとしなかった。

 安倍前政権が2014年4月と2019年10月に消費税率を2回にわたって引き上げて、その結果、日本の経済が落ち込んだことは数字で明確に示されている。今は少しでも家計を豊かにするために思い切った所得減税を実行すべきであり、これだけ消費が落ちている時に、消費税を上げたらどうしようもない。ただでさえ“消費税不況”になっていたところに、追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症の広がりによる影響を受け、経済がどうにもならない状況になってきている。こういう時こそ国の出番である。国は思い切った財政政策をとらなくてはいけない。ちまちましたことをやっていると倒産する企業がどんどん出てくる。「Go To トラベル」や「Go To イート」で済むような話ではないわけで、とんでもないことになりはしないかと心配している。いよいよ政治の本当の出番が来たように思うが、それだけのリーダーシップをとれる政治家は今のところ見当たらない。大変残念に思うが、中には志の高い人もいると思うので、そういう人達にしっかりと私の志を継いで頑張ってもらいたいと思っている。(了)