※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2020年11月16日(月)に行った講演の要約を掲載しています。

 先のアメリカ大統領選挙の後、トランプ大統領が敗北宣言をしていないので政権移行がなかなかスムーズに運ばない。政権移行チームというのは、現政権が持っている様々な情報を次期政権に渡して共有しなくてはならないのだが、これができない状況になっている。トランプ氏は未だに人事でも自分の思い通りにやっている。アジア情勢をはじめとして、世界の緊張した国際情勢がある中で、超大国であるアメリカの安全保障政策に空白が生まれていることは大変怖いことである。

 ちょうど4年前、私の政経文化フォーラムで、経済学者の浜矩子先生に講演をいただく前に私が少し話をした。アメリカ大統領選の直前で、当時はヒラリー・クリントン氏が圧勝するとの見方が大勢を占めていたが、私はトランプ氏が勝利するだろうと話したので、皆さん大変驚かれていた。アメリカが陥っている病について私なりに情報を得ていたので、トランプ氏が勝利する可能性に触れたのだが、まさにその通りになった。

 その後、トランプ政権4年弱の間、トランプ氏がアメリカはもとより国際社会の中でも十分な役割を果たしてきたとは言い難い。私は決してトランプ氏の続投を望んでいたわけではないが、親しいジャーナリストが「今度こそは民主党のバイデン氏の圧勝だ」と言うので、「いやそんなことはない、相当厳しい戦いになる」と指摘した。トランプ陣営は最初から訴訟に持ち込む考えも見せていたが、まさにその通りになっているのが今日の姿である。

 ただトランプ氏はどこかの時点でけじめをつけなくてはいけなくなる。12月8日に選挙人を確定し、14日に選挙人が投票する。来年1月6日の上下両院合同会議で投票結果が公となり、1月20日に就任式という段取りになっている。(11月25日現在、トランプ大統領は選挙戦の敗北は認めていないものの、バイデン新政権への移行準備を容認し、協力する姿勢を示したことから、クレイン首席補佐官、ブリンケン国務長官、サリバン国家安全保障担当補佐官、ケリー気候変動担当大使等のバイデン新政権の主要な人事が決まりはじめている。)

 トランプ氏はアメリカを分断させることで半数近い投票を得たわけだが、その致命傷になったのがコロナ対策のお粗末さだった。最初から機敏にコロナ対策を実行していれば、トランプが勝利した可能性は十分にあったと思う。今ホワイトハウスの前でもトランプ氏の支持者がデモを行ったりしているが、彼の熱狂的な支持者がその中心にいる。ところがバイデン陣営は、熱狂的な支持者もいるものの、トランプ陣営の熱気と比べると遥かに弱い。バイデン氏に投票した人の中には、バイデン氏がよいとは思わないけれども、トランプ氏だけはやめにしてもらいたいという人達の票が入ったということだろう。

 バイデン政権がいよいよスタートする。日本にとってはトランプ政権と比べてどうなのか?と様々な人がそれぞれの立場で発言しているが、私は必ずしもバイデン政権になったからといって日本にとってよいとは思っていない。先日、菅総理がバイデン次期大統領と電話会談した時に、バイデン氏から「日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があった」として喜んでいるようだが、バイデン次期政権はグローバリストと言われている国際派の人達に後押しされている政権であり、国際的な連携にコミットしていくことだろう。日本にとってみれば、それだけアメリカの国際戦略に協力を求める動きが具体的に出てくると思う。

 さて、コロナ問題だが、テレビに度々登場している米国立アレルギー感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士のことを、トランプ氏は持ち上げたり貶(けな)したりしてきたが、ここにきて「ファウチはクビだ」ということも言い始めている。しかしファウチ博士は辞める気はない。ファウチ氏は1984年、今から36年前に国立アレルギー感染症研究所の所長になり、6代にわたる大統領に感染症に対する助言を行ってきた。いわば感染症の権威であり、かつてエイズでアメリカが揺れた時に、エイズ対策のプランをまとめて大統領に提示したことでも知られている。

 米国立アレルギー感染症研究所というのは、米国立衛生研究所の下部に27ある研究所の一つである。ファウチ教授は有名な医学賞を受賞するなど権威を認められているが、36年も同じポストにいることは、言ってみればアメリカを目に見ない形で動かしている闇の勢力、トランプ氏は「ディープステート」という言い方をしているが、その勢力との関係が相当深いということは間違いないだろう。

 1919年につくられたイギリスの王立国際問題研究所の指導の下に、1920年代に設立されたタヴィストック研究所というのがある。その研究所は、第一次世界大戦の時に、砲弾のショックを受けて精神異常になった兵士たちをはじめ、いわゆるシェル・ショックで困っている人達を治療するための研究を行うというのが表向きの理由だった。

 その後、戦争における心理作戦、更にはいわゆる洗脳技術の開発というところまで踏み込んでいった。そのタヴィストック研究所と連携関係を持っているアメリカの研究機関、例えば陸軍の感染症医学研究所、あるいはポートダウン研究所と呼ばれている国防省の微生物研究所は、かなり前から人体実験を行ったり、一時期アメリカで流行った炭疽菌の研究開発を行ったりしている。また、民間のブルックリン研究所とカーネギー財団研究所が合併して設立されたコールド・スプリング・ハーバー研究所では優生学の研究を中心にしながらBSE、いわゆる狂牛病の研究もしている。こうした世界の研究機関からウイルスが漏れたのか、意図的に漏らしたのかはわからないが、かつて中国と台湾で流行したSARSやMARSとも無縁ではない。

 ある人から聞いた話だが、どうもファウチ博士は自身でコロナウイルスの研究をやっていたらしい。ところが極めて危険なので周囲から止められた。しかしその研究を続けたいという思いが強く、中国・武漢の研究所に補助金を出して研究を依頼したというのである。その真偽は確認のしようがないが、目に見えない感染症の広がりを見るとあり得る話ではある。最近のワクチン開発をめぐる世界的な大薬品企業と各国政府の動きを見てもコロナ問題は非常に根が深く、世界を動かしている闇の勢力の戦略と無縁ではないように見える。それだけに厄介な問題だと思う。(続く)