※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2018年11月27日(火)に行った講演の要約を掲載しています。

 私は小泉首相が「改革の本丸」と位置付けて強引に実現させた郵政民営化に大反対し、竹中平蔵氏、小泉純一郎氏と相容れずに自民党を出て国民新党をつくったが、私の考え方は決して間違ったとは思っていない。残念ながらあの当時心配した通りの状況に現在日本の郵便局が置かれてしまっている。

 もともと郵便局は長きにわたり、局長さんをはじめ多くの方々が一生懸命苦労をされて、郵便局のネットワークを構築してきた。かつては特定郵便局と呼ばれていたが、その局長さん達が自ら局舎を建てて国に貸与し郵政業務を遂行するという日本の民活の最初の姿をつくった。先人の血の滲むような努力の結果として、郵便局に対する利用者や地域の信頼が強くなり、郵便局ネットワークが形成されてきたのである。また郵便局の皆様方が一生懸命集められた郵便貯金が財政投融資の原資になって、日本の社会基盤の整備の為に使われてきたのである。戦後日本が大きく復興した陰に財政投融資政策がどれだけ貢献したのかをもう一度考えておくべきだと思う。今こそ財投の出番だと言っているが、残念ながらその原資は現在ゆうちょ銀行の経営者の判断によって国内外の株式や債券などによって運用され、外国にもどんどん出ていってしまっている。

 郵便局が本来持っている収益性と公益性の二つをうまく両立させることが一番大事なところなのだが、株式上場したので経営トップにすれば株主に利益を還元しなければ経営者の能力がないと言われる。従って何とか利益を出せ、利益を出せと色々なことをやっている。ゆうちょ銀行とかんぽ生命の2社は利益を出しているが、もともと赤字体質を持つ日本郵便は黒字にするのが大変で、局長さんや職員は過度の負担に苦しんでいる。私から見ればそもそも最初から制度設計が間違っているのである。政治が判断を間違えたのだから、政治がそれを正す以外にないと私は言い続けている。そういう声が与党、野党ともに出てこないのは全く残念なことである。

 安倍政権は一体どういう政権なのか。安倍さんの祖父は岸信介さん、盟友の麻生太郎さんの祖父は吉田茂さん。共に自分の祖父をものすごく尊敬している。吉田茂さん、岸信介さんが日本に対して何をやったのか、よく調べてみると、吉田さんは確かにそれなりの使命感を持っていたと思う。日本とアメリカとの関係を強化させることが日本の為なのだという考えが間違いなくあったと思う。その点は評価するが、当時はGHQの絶対的な力があった時で、マッカーサー元帥がこれはダメだと言えばどうしようにもなかった。マッカーサー元帥の強い権力を背後に使って、ワンマン宰相と言われるような行政をやったというのが吉田さんである。

 今、安倍首相が憲法改正を主張しているが、もともと日本は独自の憲法をつくろうとして草案づくりを進めていた。その中心となったのが商法学者の松本蒸治。だがマッカーサーからこんなものは話にならんと突き返された。マッカーサー司令部がまとめた憲法草案のオリジナルは5通あった。1通目と2通目はマッカーサーが持っていた。3通目はホイットニー准将というマッカーサーの側近、5通目はホイットニー准将の副官が持っていた。4通目は誰が持っていたのか。実は最近アメリカの資料がだんだん明らかになってくるなかでわかってきたのだが、当時、幣原喜重郎内閣の吉田茂外務大臣の公邸にホイットニー准将と副官が訪ねて憲法草案を説明した。その時に相手をしたのが吉田外務大臣と側近の白洲次郎、松本蒸治の3人。実は吉田外務大臣には4通目が既に渡っていた。前から知っていたのだが初めて見たように驚いてみせた。とにかくその草案を飲まざるを得ないようになって、憲法がつくられていくのである。そういう背景があって、吉田さんはマッカーサーとがっちり組みながら当時の政治を進めていったことは間違いない。

 一方の岸信介さん。日本が中国大陸に勢力を伸ばしていって、当時の満州(現在の中国東北部)に理想郷をつくる夢を持った人達がたくさんいたのだが、満州という新天地で辣腕をふるった5人を指して当時“弐キ参スケ”と言われた。東條英機、星野直樹、松岡洋祐、鮎川義介そして岸信介である。岸さんは大変な秀才で当時の官僚として大きな力を持った。軍部と一体となって日本が戦争への道へ突き進んでいく中で大きな役割を果たした。戦後、巣鴨プリズンに収監されたが、途中でなぜか解放される。岸さんの歩んできた経緯からすると東京裁判にかかって然るべき立場だったと思うが、ところがそれはそうではなかった。

 もともとそういう人が政界に復帰して政権を握ったわけである。1960年(昭和35年)の日米安全保障条約改定をやり、今の日米安保体制の基礎を固めたのが岸さんである。自民党の中の保守本流からすると岸さんは少し亜流になるのだが、実際に大きな足跡を残したことは間違いない。その岸さんの流れを汲むのが福田赳夫さん、安倍晋太郎さん、三塚博さん、森喜朗さん、小泉純一郎さん、福田康夫さん、安倍晋三さんらの清和会である。平成12年から平成30年までの18年、その間、民主党政権が2年足らずあったが、16年くらいの間は清和会支配の日本の政治だったわけである。小渕内閣の時に竹中平蔵氏は慶應大学名誉教授で税制調査会長等を務めた経済学者の加藤寛さんの推薦で政権の一部に携わるようになり、森政権になってから急速に政権の中枢に入る。そして小泉政権の時にはもはや竹中政治と言ってもいいような状況になった。小泉首相から政策立案を丸投げされた竹中氏は経済財政諮問会議を牛耳って、次から次へと構造改革を進め、日本を壊すようなことを今日まで進めてきた。

 今度の安倍政権では竹中氏が表には顔を出さないが、実際に全て仕切っているように見える。安倍政権を支える官房長官として絶大な権力を有している菅義偉氏は竹中氏が総務大臣を務めた時の副大臣であり、竹中氏から大きな影響を受けている。竹中氏の特有のやり方なのだろうが、産業競争力会議にしても竹中氏が主導しているし、規制改革推進会議においては日本にある様々な規制をすべて取り払って、外資だろうが何だろうが自由に参入できるような国にしたいとの思いのもと改革を進めている。規制改革推進会議の議長は竹中氏の愛弟子である大田弘子さん。そのメンバーをみると会社経営者が多いが、その中には外資系企業の経営者も加わっている。本来、政府の様々な審議会は利害関係者の意見を参考意見として聞くのはよいけれども、政策を決定するメンバーに加わっているのは大問題である。自らが規制を外してつくった新しい分野に参入して事業を行い、利益を得るようなことが許されてよいはずはない。

 とにかく今の安倍政権は結論先にありきで、多数の力にまかせて議会政治の最も大切にしなくてはならないところを全部端折ってしまう。こういうことをしていると議会政治が形骸化して、結局、政治に対する国民の信頼はますますなくなる。安倍首相は最初の頃は“李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず”と答弁で述べていたが、今やそんなことを言えるような状況ではない。安倍内閣に反対する人達の一番大きな理由は「人として信頼できない。」ということ。平気で嘘を言い、他の閣僚も右へ倣えである。安倍首相は行政の最高責任者は私ですと言っておきながら、何も責任を取ろうとしない。これでは国民の信頼はいずれなくなってしまうだろうと思う。

 日本の国民の食を守る為に主要農作物種子法が1952年に制定された。二度と国民を飢えさせるようなことがあってはいけないということで、主要農産物である稲、麦、大豆の種子については国が責任を持って管理をするという基本を決め、そして各県の農業試験場と地域の農協とが一緒になって、その地域にあった種の改良や開発に取り組む、その為の財政的な支援はするという仕組みである。今、日本の米は約300種類ある。それを地域でしっかり守りながら、少しでも美味しい米をつくろうと取り組んできた。その種子法を昨年4月にいとも簡単に廃止してしまったのである。森友問題でガタガタしている時にさっと廃止してしまったものだから、メディアもほとんど報道しない。しかしこれは非常に大きな問題なのである。現在、世界の遺伝子組み換え作物市場の大部分をアメリカの農薬会社モンサント社が握っている。いまはドイツのバイエル社に吸収合併されたが、そういう大手の企業がすべて一元管理している状況で、遺伝子組み換えの作物をどんどん増やしていこうとしている。とにかく食料も彼らの一つの金儲けの道具になってしまう。水道法改正案も大きな問題である。自治体が水道の施設の所有はするけれど、運営権を企業に譲り渡してしまう。利益が出なくなったらどんどん料金を上げてくることになる。海外では水道の民営化で皆失敗しているのに、日本がなぜわざわざこんなことをやるのか。結局すべてが金儲けの道具になってしまっている。

 先日、大阪万博開催が決まった。東京で2020年にオリンピック・パラリンピック大会がある。大阪にとってみれば、大阪が大きく振興するきっかけになるということで2025年に万博をどうしてもやりたい。それはよいのだが、しかしその裏にIR法(カジノ法)が絡んでいる。大阪万博のスポンサー企業の中にアメリカのカジノ業者が入っている。

 とにかく規制改革推進会議などを使ってどんどんこういうことが行われていくと、日本は完全に壊されてしまう。こういうことがまかり通っている政権は早くお引き取りいただかないと日本の為にならない。(了)