※私が主宰する「政経文化フォーラム」において、去る2018年11月27日(火)に行った講演の要約を掲載しています。

 最近は内外の情勢がますます混乱してきて、世界のどこで何が起こるかわからない。

 先日、日産自動車のゴーン前会長が逮捕された事件も大変ショッキングなニュースだった。このことを一つとってみてもそう簡単な話ではなく、裏には色々な背景がある。

 米中間の貿易摩擦をはじめ米朝首脳会談の行方に関わる朝鮮半島情勢も複雑であるし、またロシアとウクライナとの間で何かが始まりそうな感じもしないでもない。更に日ロ関係は来年のプーチン大統領の訪日を控えて、これから大変難しい局面になってくるだろう。

 中東情勢にしてもイスラエルが周囲から押さえ込まれつつあり、孤立感をますます強めている。そうした中、中東では今圧倒的な存在感をロシアが発揮しており、イラン、シリア、トルコといった国をまとめながらイスラエルの封じ込めにかかっている状況である。

 更にはヨーロッパではEUが創設以来最大の危機を迎えている。イギリスのEU離脱の問題はヨーロッパの経済、政治に大きな影響を与えることは申し上げるまでもない。既にそのことを見越して、イギリスにある国際的な企業はどんどん大陸の方に拠点を移してきている。ドイツのフランクフルト辺りには相当な数の企業が移っている。メイ首相は一生懸命、軟着陸をさせたいという努力をしているわけだが、強硬な人達は全く承認できないということで、メイ首相がまとめたEUとの間の合意案も議会で通るかどうか、全くわからない状況である。またEUを支えてきたドイツのメルケル首相が、10月に行われたバイエルン州とエッセン州の州議会選挙でいずれも完敗した。キリスト教民主同盟・社会同盟の力が落ちてきている中で、ドイツの為の選択肢という右翼政党が躍進、環境政党である緑の党も議席を伸ばしている。こういう中でメルケル首相もこれ以上続投することは不可能と判断、首相は任期が終わるまで続けるけれど党首を辞任して、次の党首選挙には出馬しないことを表明した。フランスのマクロン大統領も失業率の上昇と支持率の低下により決して安定しているとは言えず、極右政党が相当な力を持ってきている。

 こうした状況をみると、世界中何が起こるかわからない。一体なぜこんなことになったのか、その底流を考えてみたい。まずはアメリカ。日米同盟がしきりに言われ、安倍首相はトランプ大統領の個人的な友人関係を誇示しているし、トランプ大統領も各国首脳と良好な関係が築けない中で、安倍首相が一生懸命に立ててくれるものだから決して悪い気はしない。貿易の問題にしても自動車の関税を2.5%から25%まで上げることを直ちに実行されたら日本は大変なことになるのだが、安倍首相としてもそれは実行してほしくない。しからば日米間の貿易問題、経済問題はこのまま知らん顔をしていればいいかというと、そういうわけにはいかない。日本はアメリカとの二国間の自由貿易協定(FTA)には、従来から反対をしてきている。FTAがうまく進まないからアメリカはオバマ前大統領の時にTPP(環太平洋経済連携協定)に積極的にアメリカも参加して、多国間協定の中で従来からのアメリカの日本に対する要求をのませようという戦略だった。だがトランプ大統領はそのTPPからの離脱を決め、来年早々からTAGという事実上のFTAの交渉を行うことで安倍首相と合意した。彼はオバマ前大統領が実行したことをすべてひっくり返す。大統領選挙の時にメディアがほとんどクリントン支持に回っていたことに対してもおもしろくない。先日もホワイトハウスでの記者会見で、CNNの記者とやりあったように絶えずメディアと喧嘩をしているのである。

 ちょうど一昨年の大統領選挙の直前、私はこの政経文化フォーラムで話したことを思い出す。アメリカだけでなく、日本のメディアもクリントン氏が圧倒的に勝利を収めるだろうと報じていたが、私はトランプが勝つ可能性が極めて高いと申し上げた。結果はその通りだったが、そのトランプ氏が政権を取って、オバマ氏の政策を次から次へと否定していく。気候変動に関するパリ協定からの離脱や中距離核戦力(INF)全廃条約から脱退することも明らかにしている。とにかく自分なりの考え方で突き進もうとしている。しかしそうは言っても、国内には建国以来ずっとアメリカを動かしてきた一部の支配勢力が厳然として存在するのである。その勢力と全面的な対決をすれば自分はもたないこともよくわかっている。従ってその勢力と妥協したり取引をしたりして、なんとか自分の政権を続けていこうとしている。先般の中間選挙においては、上院は勝ったけれど下院では負けてしまった。下院が予算の承認権を持っているので、予算を伴うような政策の実行は難しい。トランプ大統領としてはますます外に対して強く出ていかざるを得ない状況にあるのだろう。

 トランプ大統領が今ぶつかっている相手がある。それはアメリカが独立して以来、一貫してアメリカを動かしてきている勢力である。特にその人達がアメリカを支配する力の源泉として考えたのが、金融資本によるアメリカのコントロールだった。ちょうど19世紀の中頃からヨーロッパを既に支配していた国際金融資本のロス・チャイルドの影響を受けた人達がアメリカに移り、アメリカを支配下に治める戦略を立てた。その時の重要人物が何人かいる。1人はジェイコブ・シフ。日露戦争の時に、日銀の副総裁だった高橋是清が戦費を調達する為、同盟国であるイギリスに交渉に行った。ところが当時イギリスは、ロシアを相手にとても日本が勝てるとも思えないので、それは無理だと断る。日本の戦費調達がなかなか思うようにいかない。その足元を見て、アメリカのクーン・ローブ商会のジェイコブ・シフが法外な高い金利を付けて、当時の日本のGDPの2年半分のお金を貸したのである。当時の楽観的な見通しでも返済に60年かかると言われたが、実際には82年かかった。1986年、中曽根内閣の時にようやく返し終わったのである。

 このジェイコブ・シフという人はもともとユダヤ人の金融家で、アメリカのクーン・ローブ商会のソロモン・ローブの長女と結婚し、共同経営者になる。そしてもう1人忘れてならないのはポール・ウォーバーグである。今でもウォーバーグ銀行やウォーバーグ証券などがある。ジェイコブ・シフと相前後してアメリカに行って、ソロモン・ローブの次女と結婚し、ジェイコブ・シフと共に共同経営者になる。

 当時アメリカの金融界で大きな勢力を持っていたのがモルガンファミリー、ビルドファミリー、ドレクセルファミリー。その三つのファミリーと連携し、銀行連合をつくり、そこにヨーロッパの金融資本からの巨額の投資を受けて、当時アメリカの鉄鋼王と言われたアンドリュー・カーネギー、鉄道王のエドワード・ハリマン、石油で大儲けをしていたロック・フェラー、この鉄鋼と鉄道と石油の三つに徹底的な金融支援をして財閥に育て上げたのである。その人達がアメリカの大きな力を有するに至る。

 よくアメリカは1%の金持ちが大半の資産を占有している国だと言われるが、これはまさにその通りで、戦略的にやったわけだからそうなっても致し方がない。彼らが最終的にアメリカを完全に握る為に何をやったかというと、中央銀行のようなものをつくって、そこでお金の発行権を握って、金融支配をしようと考えた。ご承知のFRB(連邦準備制度理事会)が大きな力を持って、大統領とは独立した権限によってアメリカの金融政策を一手にやっている。これは日銀のような中央銀行に見えるのだが、実はそうではなく、言ってみればプライベートバンクである。アメリカの12の主要都市にある連邦銀行をまとめているのがFRBで、そのトップがFRB議長である。先日まではジャネット・イエレン、現在はジェローム・パウエルが議長に就いている。かつてのポール・ボルカー、アラン・グリーンスパン、ベン・バーナンキなど、とにかく皆、金融政策の中心人物として評価されている。

 この連邦準備制度はどうやってつくられたか。1910年、JPモルガンが所有する別荘がジョージア州のジキル島にあり、そこに当時の国際通貨委員会のメンバーを招集し、連邦制度理事会をつくる相談をした。それをつくる為には法律が必要であり、法律をつくる為には自分達の自由になる大統領をつくらなくてはいけない。そこで目を付けたのがウッドロウ・ウィルソンという人物。この人は当時それほど力があるわけではなかったが、そのウィルソンを傀儡として大統領にしなくてはいけない。当時ウィリアム・タフトという共和党の大統領が現職で、タフトは再選を目指していた。タフトとウィルソンが直接対決したら、間違いなくタフトが勝ってしまう。そこで連中は何を考えたかというと、共和党で元大統領だったセオドア・ルーズベルトを共和党から離れて無所属で立候補させることによって、共和党の票が割れて民主党のウィルソンを当選させたのである。その時に3人に資金提供をしていた人達を調べてみると、皆同じ流れの人だった。自分達の傀儡の大統領をつくって、1913年に連邦準備制度を発足させ、その傘下にある連邦銀行が紙幣の発行権を持ったのである。ドル紙幣を見ると、表面の一番上に細長く“Federal Reserve Note”と書かれている。日本の紙幣に日本銀行券と書いてあるのと同じで、政府が発行したものではなく、連邦準備銀行券なのである。その銀行券を発行する権限を持つので、金融支配ができるのは当然のことで、そこが彼らの力の源泉になっているのである。(続く)